筋肉の基礎知識を理解すればトレーニング効果がグンと上がる
人間の筋肉の生い立ち
人間のからだは200余の骨が骨格を形成して土台をつくり、骨格をおおうように筋肉が付着して「身体」を形づくっています。すべての筋肉が意思のままに動いたり働いたりするわけではありませんが、骨と骨をつなぐ関節や、骨と筋肉を結ぶ腱などの助けを借り、筋肉の働きが骨を動かしてからだを動かしているのです。
人体の筋肉には、骨と骨との間あるいは骨をおおうように付着し身体を動かす骨格筋、胃や陽などの内臓や血管の壁にみられる平滑筋(内臓筋)、心臓を形成する心筋の、大きく分けて3種類の筋肉があります。私たちが普通「筋肉」という場合は、からだを動かす骨格筋を指します。
骨格筋というからだを動かすための筋肉の総重量は体重の約40%でした。女性は男性よりも筋肉の量は少ないのですが、人間はだいたい体重の40%、ほぼ3分の1強が筋肉でできているといえます。
人間は筋肉を身にまとったおかげで、立ったり、歩いたり、物を運搬したり、さまざまな運動を行うことができます。人間が地球上で、あるいは宇宙で活動できるのも筋肉があるおかげです。
では、人間の活動範囲を広げてくれた筋肉は、いったいどのようにして地球上に生まれたのでしょうか。
筋肉の構造や働きについて学ぶ前に、筋肉誕生のプロセスについてたどってみましょう。 筋肉はタンパク質からできています。そのタンパク質はアミノ酸からつくられています。すなわち、筋肉の原材料はアミノ酸です。アミノ酸とタンパク質は簡単につくられることが実験によって確認されています。
いま、水素、メタン、アンモニア、水蒸気の4種類のガスをフラスコに封じ込めて、これに電気火花を散らしておくと、いろいろなアミノ酸がつくられてきます。
次に、いろいろな種類のアミノ酸を海水に溶かして、摂氏90℃くらいに温めておくと、アミノ酸同士が化合してタンパク質がつくられてきます。 地球が誕生した45億年ほど前の地球環境は、この実験と同じような条件にあったと考えられています。
誕生当時の地球は、いたるところで火山が噴火するという荒々しい状態でした。地球を取巻く大気は、地球内部から噴出したいろいろなガスでおおわれていました。このガスの中にアミノ酸の材料となる水素、メタン、アンモニア、水蒸気が含まれていました。これらのガスに稲妻という火花が加わってさまざまな化学反応が進み、アミノ酸がつくられました。
このアミノ酸は、地球表面上にたまった水によってできた海の中に長い年月をかけて蓄積されていきました。これに太陽からの紫外線や熱エネルギーが加わって、タンパク質がつくられていったのです。
このようにして生成されたタンパク質の塊は、油の膜でおおわれていたと考えられています。生命になる少し前の状態はいちばん外側は膜でおおわれ、内部にはタンパク質などが集まった油滴が
できあがっていたのです。
この膜のおかげで、内部は外の環境から隔離され、独特の反応が進んでいきました。 そして、外部からは膜を通して栄養物質を取り入れて成長し、それがある大きさになると分裂するという不思議な過程を繰り返すようになったのです。
その後、非常に長い年代をかけてゆっくりと生き物の進化が進み、筋肉がつくられてきました。 人類もこれら生き物の一つとして筋肉を身にまとい、この地球上に誕生してきたのです。
筋肉の発達と老化
卵細胞からの分裂と分化によって、いろいろな細胞ができあがってきます。私たちのからだには約200~300種類もの異なった細胞があります。これらの細胞は、ただ無秩序に存在するのではなく、同じ働きをする細胞が集まって組織をつくります。
人間のからだにある組織は、上皮組織、支持組織、筋肉組織、神経組織の4種類に分けられます。 身体運動の原動力となる筋肉組織は、筋細胞がたくさん集まってできています。筋細胞は細長い糸のような形をしていることから筋繊維とも呼ばれます。
胚で筋肉の原型ができあがり、その後、筋細胞は増殖を繰り返してその数を増やしていきます。分娩近くになり胎児の大きさ(頭から一管一部までの長さ)が20cmを超える頃から筋細胞はあまり増殖しなくなります。
代わって、この頃から筋細胞の肥大が顕著になってきます。 誕生後は、発育にともなって筋細胞の肥大は起こりますが、増殖はみられません。一般に、筋細胞の増殖は胎児期までにほとんど終わり、生後の筋肉の発育は肥大によるものであると考えられています。
このように増殖と肥大によって発育した筋細胞は、成人になると筋肉の総重量も増えます。新生児のときには筋肉の総重量は体重のおよそ25%ですが、成人になると筋肉の総重量は体重のほぼ40%を占めるようになります。
筋肉の量は20歳まで活発に増えますが、30歳以後は次第に筋肉は減ってきます。
筋肉の基礎知識
筋力トレーニングの方法さえ知っていれば、筋肉の仕組みや性質などについてくわしく知らなくても、それほど困りません。
けれど、次に紹介する基礎的な知識は、頭のなかに入れておいたほうが、トレーニング効果を上げるために役立つはずです。
まず、筋肉の構造をカンタンに紹介します。筋肉は、筋繊維と呼ばれる糸のように細長く伸びた筋肉細胞が、たくさん集まってできています。
ふつうその形は、中央のあたりがふくらんでいて、全体は筋膜という膜でつつまん細くなった両方の端は腱となり、骨にしっかりくっついています。筋肉に栄養分を送る血管、筋繊維に運動の指令を出す神経などがありますが、いちばん大きな割合をしめるのは、筋繊維です。
筋繊維は、直径約0.01ミリ~0.1ミリの太さで、長さ10センチほどです。そして筋繊維は、筋原繊維が集まってできています。
トレーニングをすると、この筋繊維が切れたり、傷ついたり、疲労物質がたまったりして、筋力レベルは落ちていきます。そして休息により栄養を補給することで筋繊維はよみがえります。筋肉には、縮む性質があります。これは、筋原線維に縮む性質があるためです。
筋原繊維が縮むことにより筋繊維が縮み、さらに筋肉全体が収縮するといった仕組みにより、パワーが生み出されます。
しかし、筋繊維はすべて同じ性質を持っているわけではありません。縮む速さのちがいにより、2種類に大きく分けることができます。
縮む速度の速い筋繊維である「速筋」と、縮む速度の遅い筋繊維である「遅筋」があります。
遅筋の縮む速度は速筋の約2分の1ですが、速筋よりはるかに持久力があり、疲れにくくなっています。
腹筋が身体の軸であり、大切な要素
スポーツマンにとって筋は重要であり、このことについて異を唱える人はいないと思います。特に腹筋は身体の軸になる筋で、筋の中でも非常に重要です。
しかし、小学生~高校生までの部活動等で行われている腹筋の筋力増大練習は個々で方法もさまざまで統一されておらず、なんの根拠もない方法で実施されている場合があります。
筋は関節をまたいで骨に付着し、筋は収縮させることで関節を曲げたりすることができます。
普段ほとんどの人が行っている腹筋運動は、仰向けで寝て股関節を軸に上半身を持ち上げて上半身が床と直角になるまで体を起こしていると思います。
しかし、上半身を床から直角になるまで起こしてしまうと腹筋の運動ではなくなってしまいます。腹筋は胸から臍辺りまでしかないので、本来は胸が臍に近づくまでの動きが腹筋であり、床から背中が浮いた時点で腹筋は働いていません。この時に働いているのは股関節を曲げる筋です。
腹筋運動をする場合は肩甲骨が床から離れたぐらいまでにしておく必要があります。
筋肉は細い繊維の束からできている
「筋肉」というと肉の塊を連想しがちですが、実は「筋繊維」という細い繊維の束からできています。筋繊維には「白筋」と「赤筋」があります。
白筋は「速筋」とも呼ばれ、瞬発力に優れた筋肉です。赤筋は「遅筋」と呼ばれ、持久力に優れた筋肉。速筋と遅筋、ともにひとつの同じ筋肉に混ざりこんでいて、その割合によって筋肉の性質が決まってきます。
トレーニングなどで筋肉に大きな負担がかかると筋繊維が傷ついたり微細に切れたりしてしまいます。トレーニングって体に悪いんじゃない…なんてちょっとオドロキですが、筋繊維は普段しないような階段の上り下りなどでもわりと簡単に傷ついてしまうのです。
超回復のメカニズムを知っておこう!
筋繊維が傷ついた後にやってくるのがツライ筋肉痛。筋繊維が傷ついて軽く炎症を起こし、熱を持ったり、腫れたりしている状態です。この痛みが続いている間は、傷ついた筋線維をたんぱく質を材料にして修復します。再び同じ程度の負荷がかかっても傷ついたりしないように太く補強しているのです。
こうして傷ついた筋線維の1本1本が再び回復したとき、以前よりも太く、丈夫に生まれ変わっています。これが「超回復」という現象。超回復の後、再び同じトレーニングに取り組むと、以前よりたくさんの回数をこなせたり、重い負荷にもチャレンジできるようになっているはず。
こうして「筋繊維が傷つく→超回復」を繰り返すことで筋繊維はよりハードな運動にも耐えていけるようになります。実は筋肉痛はトレーニングが効いているという証拠でもあるのです。