使いたい筋肉の動作スピードに合わせてトレーニングを変えないと意味がない
筋肉をつければ筋力はアップする?筋肉と筋力は違う
筋肥大と筋力の関係
基本的には筋力は筋断面積に比例して増加します。そこで筋力が重要とされるスポーツ競技においては、筋肉をつければつけるほど良いということになります。しかしながらボディビルダーは身体の大きさに対してあまり筋力が強くないとよくいわれます。これはどういうことでしょうか。
筋肉の多くは筋肉と筋繊維の方向が同一でなく、筋肉の方向に対し筋繊維は斜方向に延びています。このような筋肉と筋繊維がつくる角度のことを羽状角といいますが、筋肉が肥大すると羽状角が大きくなり、筋肉の力の方向と筋繊維の方向のずれが大きくなります。
したがって、極端に肥大した筋では力発揮の効率が悪くなり、筋肥大に見合った筋力の増加がみられず、逆に筋肉がついたことによる重量の増加のために、競技にとってマイナスになる可能性があります。
動作スピードを考えて筋カアップ
筋カトレーニングを実施する理由が目的とする競技に必要な筋力をつけるためなら筋肉づくりだけに目を向けることには問題があります。前述した羽状角の問題もそうですが、トレーニングには動作スピード(速度)の特異性があります。
ボディビルダーがよく行うゆっくりした動作での多反復回数のトレーニングはゆっくりした動きの筋力発揮には効果がありますが、速いスピードの動きに対しては効果を期待できないという特性があります。したがってもし短距離走選手のような瞬発的な速い動きを必要とする選手がボディビルダーのようにゆっくりした動作でのトレーニングを行った場合は、ついた筋肉がかえって重りになって、競技に悪影響を及ぼすという問題が生じます。
また筋繊維のレベルで考えても、ゆっくりした動作中に中心的に使われるのは遅筋繊維で、速いスピードでの運動では速筋繊維が重要な役割を果たします。競技と同じように速いスピードでトレーニングしなければ競技中に最も重要な役割を果たしている速筋繊維を鍛えていなかったということになってしまいます。
筋肉を肥大させずに筋力をアップさせる
筋肉を肥大させずに筋カアップを図りたいとする競技種目があります。
柔道やレスリングなどの階級制の競技がまさにそれです。
筋力が増加するしくみは
①筋繊維が肥大することと
②筋繊維の動員数
を増やすことに大きく分けられます。したがって、筋肉を増やさずに筋カアップを図るには筋繊維の動員数を増やすこと、つまり普段使われない筋繊維(眠っている筋繊維)の動員を増やすことが重要です。
通常は一定の神経系の抑制がかかっていて、最大に筋力を発揮しようとしても、すべての筋繊維を動員することはできません。しかし、いわゆる火事場のばか力に代表さるように、ある条件のもと抑制さえなくなれば筋繊維の動員数が増えます。力を発揮する時に、自ら「ソレー!」と声を出したり陸上のスタートの時に人の声でスタートするよりもピストルを使うと良い結果が出ることを知っている人もいるかと思います。
これはかけ声やピストル音によって通常の抑制が取り除かれた効果と考えられ、このような抑制をとって最大筋力を出すトレーニングを普段から実施することは効果があるでしょう。また、運動する時に鏡を見て使う筋肉に意識を集中させたり、最大筋力に近い高負荷、低回数の運動(集中力を高める効果があるとされる)を行い、動員できるすべての筋繊維を刺激するトレーニングなども効果があるでしょう。