筋と腱のスポーツ障害である肉ばなれや筋挫傷、筋肉痛を詳しく解説
筋の構造と働き
筋肉と腱は筋腱複合体という一連の構造を作り、収縮運動をしています。
筋肉は、筋線維という1個1個の筋肉の細胞が、伸び縮みする力を持っています。
そして、その力を、腱を介して骨に伝えることになります。
筋肉はいくつかの筋束が集まってできており、筋束の中には多くの筋線維が集まっています。そして、筋線維の中には多くの筋原線維があります。筋原線維の構造は、筋節という規則正しい単位が縦に連なり、それが横にも多数の東になったものであることがわかっています。
筋節は、アクチンとミオシンという筋線維特有のたんぱく質から構成されています。この2つのたんぱく質の位置関係が変わることで、筋節の長さが変化し、その結果が筋線維の伸縮となります
筋の障害(肉ばなれ、筋挫傷、筋肉痛)
肉ばなれ筋肉に起こる急性のケガとして、最も身近なのは筋線維が切れる「肉ばなれ」でしょう。外部からの力を受けておこるのではなく、自分の重さや筋力によって筋線維が切れてしまうのです。
肉ばなれを起こすときに発揮されている力は、筋肉が縮もうと短縮するときに発生する力ではなく、伸ばされながら発生することがほとんどです。
肉ばなれが最もよく発生するのは、大腿の後ろ側のハムストリングです。その他、大腿の前側の大腿四頭筋、ふくらはぎの誹腹筋にもしばしば見られます。
これらの筋肉に共通しているのは、2つ以上の関節を越えて伸びる2関節筋であるということです。2関節筋は、2つの関節の動きの影響で長さの変化が大きく、2つの関節が筋肉に対して同じ作用を及ぼす方向に働くとは限りません。こうした特徴があるために、損傷が起こりやすいと考えられています。
たとえば、ランニング中に接地している脚のハムストリングは、股関節を伸展させるために収縮して力を発生させますが、膝が伸展することで伸ばされます。そのため、伸張性収縮が起こり、肉ばなれが発生しやすくなるのです。
肉ばなれでは、筋線維が急に引っ張られ、ちぎれるように切れます。英語では、muscle strainと表現されます。実際に超音波検査やMRIの画像を見ると、筋線維から腱や創莫(筋膜)につながる連結部で切れていることがわかります。
力が加わって損傷が生じるときには、力学的に最も弱い部分に損傷が生じると考えられます。筋肉であれば、筋線維の途中で切れるよりも、筋線維と腱などの連結部、つまり伸び縮みの性質の異なる境界部分で切れるのだと解釈できます。
筋線維が切れたことで生じた隙間には、おそらく血液などの体液がたまります。やがてその中に、腱や腱膜と筋線維をつなげるための線維組織(筋線維とは異なる、腱に近い組織)ができ、隙間が埋められていきます。十分な強度で線維組織ができ、腱や創莫と筋線維とがつなげられると、筋肉の収縮に耐えられるようになり、筋腱複合体としての機能が回復します。このように回復するまでの期間はだいたい1カ月程度と考えられます。
肉ばなれでも、より強い力が加わったときには、大量の筋が切れることがあります。その場合には、肉ばなれというよりも筋の部分断裂と呼ぶほうが適当です。ハムストリングや大腿直筋では、1つの筋の半分以上(ときには全体)が切れるような筋断裂が起こることもあります。
筋挫傷
筋肉に外部からの力が加わり、筋肉が押しつぶされるケガが「筋挫傷」です。物とぶつかったり、他の選手の体と衝突したりした場合に起こります。筋挫傷は英語でmuscle contusionと表現されます。
筋挫傷では、筋線維やその周辺にある毛細血管が押しつぶされ、筋の損傷だけでなく、血管の損傷による内出血も起こります。そのため、損傷部分の圧力が急激に高くなり、圧力のために筋肉内の血流が途絶えると、強い痛みと筋肉の壊死を招くコンパートメント症を引き起こすこともあります。
また、大腿の筋挫傷の項で述べるように、骨の近くで損傷が起こると、骨の周りの本来は骨のない場所に骨ができてしまうことがあります。これを異所性骨化といい、骨化性筋炎という合併症も起こります。
血管の損傷による内出血は、患部を冷やし、圧迫することで最小限にとどめることができます。その意味で、応急処置の基本であるRICE処置を行うことは重要です。
筋肉痛
強いトレーニングなどで起こるいわゆる筋肉痛は、筋の慢性障害と考えることができます。筋肉痛はトレーニングの直後にも起こりますが、数時間から数日後まで、発生期間の範囲もさまざまです。通常の筋肉痛では、肉ばなれのような筋線維の断裂は起こっていません。
しかし、筋線維の内部で筋節構造が壊れていることが、観察でわかっています。また、筋線維の細胞膜の透過性(物質を通す度合い)が変化したり、炎症反応が起こったりすることで、MRIや超音波検査の画像にも色調の変化が現れます。
このような周寡は、筋繍碓の周囲に存在する筋衛星(サテライト)細胞によって修復されます。
腱の障害(腱炎、腱断裂、腱鞘(周囲)炎)
腱炎腱は筋肉の収縮力を骨に伝えているだけではなく、自らも伸びることでエネルギーをたくわえ、スポーツの動作にも関係しています。ただ、強度には限界があり、アキレス腱のように強靭な太い腱でも、強い力が加われば切れることがあります。
腱に加わる力と腱の長さ(伸び)との関係は、数十年前の研究で明らかになっています。これによると、腱が4%程度伸ばされるとコラーゲン線維の一部が断裂し、8%伸ばされると全体的な断裂が起こることになっています。
スポーツ選手の日常的なトレーニングにおいて、腱がどのくらい伸びているかについては、数%から十数%までさまざまな見解があります。トレーニング中にコラーゲン線維の一部が損傷している可能性はあります。
このようなメカニズムで腱のコラーゲン線維の一部が切れ、それに対する炎症や修復反応が起こっているのが「腱炎」と呼ばれる状態です。ただ、他の運動器の損傷と異なり、明確な炎症の所見がないことから、「腱炎」よりも「腱症」と呼ぶほうが適切ではないかという意見もあります。
腱の内部に硬いしこりができて動きを妨げる場合には、それを取り除く手術が行われることがあります。それ以外は、積極的な治療方法がありません。
腱断裂
切れた腱の線維が多く、肉眼的に確認できる場合には、「腱部分断裂」という診断名が適切と考えられます。さらに、ある特定の筋肉に連結する腱全体が切れた場合には、腱断裂、あるいは腱完全断裂と呼ばれます。
腱の断裂は、スパッと切れるのではなく、ほとんどの場合、ロープが切れたときのように、断端がバサバサになっています。特に慢性的に腱炎があった場合には弱っていた腱が切れるため、広範囲にわたってバサバサした断端になっています。腱断裂の治療は、縫い寄せる方法と、固定によって癒合させる方法とがあります。
最近では、アキレス腱断裂の治療で固定で癒合させる方法が一般的になっています。
線維組織の再生は活発なので、腱の断端同士を接触した状態に保つことができれば、癒合は起こります。安静が保ちにくい腱や、細く再生が難しい部位では、手術で縫い寄せる方法が選択されます。
腱鞘(周囲)炎
腱は筋肉の収縮力によって骨を引っ張りますが、その際に周囲の組織との摩擦が生じます。そこで、腱が滑らかに動くように、腱の周囲には滑りを助けるための腱鞘が発達しています。しかし、腱鞘の働きを超えるような摩擦や衝突が繰り返されると、腱鞘に炎症が起こります。
腱そのものの炎症である「腱炎」に対し、「腱鞘炎」あるいは「腱周囲炎」と呼ばれるのがこの症状です。
腱鞘炎になると、腱鞘の中の潤滑液(滑液)が炎症性の液体と合わさって増加し、患部が腫れ上がります。また、腱鞘の壁の膜も摩擦によって厚くなり、腱の動きが押さえ込まれたり、引っかかりやすくなったりします。これが腱鞘炎の症状として現れる動きの制限や弾発現象の原因です。
腱鞘炎の状態が長期化すると、腱鞘が厚く硬くなり、腱鞘の隙間から腱に向かう血管が圧迫され、血行が途絶えてしまうことがあります。こうなると腱は血行不良で小さな傷を修復できなくなり、腱症が悪化していくと考えられます。
腱鞘炎の治療では、腱の周りに抗炎症薬を注入するブロック治療が行われます。慢性化して腱の動きが悪くなっている場合には、腱鞘に切れ目を入れて広げる腱鞘切開という手術が行われます。
この記事を見た人は、一緒にこんな記事も読んでいます!